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Chapter 1137 - 斯くして夜は伝説へと


──────……

────……

──……

『……とはいえ、十中八九〝敵〟に対する備えなのだとは思う』

『まあアレ関係がラスボス(・・・・)って考えるなら、そういう流れになるか』

『女神自身では何かしらの理由で〝敵〟に手を下すことができない。そして神の力を授けられたか、あるいは神の力そのものが形と成したモノと思しき五色の御柱。大いなる女神の眷属たちでも、対処は叶わなかったのだとして……』

『次のバトン走者が、俺たちプレイヤーなのではって話?』

『なのかもしれないという話。女神や御柱を〝信仰〟している……いいえ、敬虔というよりも敬愛(・・)を示すNPCたちも、女神の眷属かソレに類する者たちと仮定して』

『うん』

『彼らもまた〝封印〟という択を重ねたところから察するに、神は自ら手を出せないという縛り(・・)に眷属も同じく囚われているのかも。だとすれば、だからこそ……』

『縛りに囚われない異世界の勇者を召喚した────ってか?』

『ん』

『そも、神様不在説の根拠は?』

『ん……根拠というか』

『というか?』

『ゲームプレイ全体を通して、あまりにも、影が薄い……から?』

『お、不敬かな?』

『真面目な話をすると』

『小ボケは義務じゃねぇぞ姫様』

『仮想世界アルカディアの情勢を語ってくれる唯一の存在。数多いるNPCたちは例外なく、確かに〝女神〟を尊いものとして語り継いではいるけれど……』

『だなぁ』

『けれど……その神(・)様(・)が(・)実(・)際(・)に(・)何(・)か(・)を(・)成(・)し(・)た(・)と(・)い(・)う(・)話(・)は、ほぼ語られていないの』

『……………………え、そうなん?』

『世界創生という、なによりも大きな始まりの大前提を除いては、ね』

『マジ?』

『マジ。それだけで神としての格は十分が過ぎるけれど……〝神話〟と呼べる類の言い伝えで他に語られているものは、基本的に眷属(カラード)による事柄ばかり』

『そう、なんか……────ん? あれ、いやでもFour Pillar Warの舞台(・・)って確か』

『娯楽のために、女神が創ったとされている』

『一応、成したことなのでは?』

『多分それ、嘘』

『はい? え、嘘……嘘ぉ!? 誰がついた、なんのためのっ?』

『ん。これについては、情報を踏まえての明確な根拠がある』

『…………』

『名を冠するNPC……────〝Thousand Memories〟に連なる、今を託された者たちよ』

◇◆◇◆◇

「────………………期待以上、と言っていいのでは?」

「全くだね……いやはや、これ以上なく素晴らしいコントラクター殿だ」

薄闇の満ちる部屋。余分な音の居ない部屋。無数のモニターから放たれる光と音を除いて、一切の不必要が存在しない部屋────世界から隔絶された空間の中。

『はぁー…………え、マジのマジ?』

『マジのマジよ』

『マぁジ、かぁ…………えー……だから、かぁ? だからこその〝憶〟ぅ……?』

『おそらく、ね。つまり彼らは────』

「……っはは。無知の似合う春日君も相方として、いい味を出してます」

「才能だな。あの歳で中々、こうも純粋に感情を魅せてくれる青年も珍しかろう」

時(・)間(・)に(・)な(・)い(・)時(・)間(・)の(・)中(・)。

ほんの数秒前に無事終了した配信映像を、一瞬にも満たない刹那の空白に座すまま穏やかに観測する影が二つ。映像の雰囲気に引っ張られてのことだろう、

「……大丈夫(・・・)、ですかね」

「大丈夫(・・・)さ。私たちが今を観測できているのが、何よりの保証だ」

交わす言葉の持つ重みは、常と変わらず。しかしながら意識せず軽くなってしまっている声音に二人は気付き、顔を見合わせて苦笑いを滲ませた。

「……いかんな」

然して、自責を以って反射的に自重へ傾こうとする四谷徹吾を、

「いいでしょう、これくらい。少しは気を緩めないと身が保ちません」

そのまま苦笑いを楽しげな笑みへと転じた千歳和晴が、息抜きへと誘う。

「進捗は順調です」

「そうだな」

「なら……喜ぶことはできませんが、安心することくらい赦されるはずでしょう」

「…………そうだろうか」

とはいえ、そう簡単に只人へ戻れないことなど今更が過ぎる────どこまでも自罰的なクライアントに、そう在るべきと識りながらも同情的な共犯者は、

「そらちゃん。楽しそうでしたね」

「………………………………」

長い付き合い、今に至って遠慮ナシ。彼を確実に現実へと引き戻すことのできる、ほぼ唯一の切り札を躊躇わず話題へ挙げる。さすれば……顕れるのは、

「…………全く、胃が痛かったよ」

只の人が一人。娘を想う父親は先程と全く色味の異なる苦笑いを浮かべて、これまでも身体を預けていた椅子を体重全てで思い切り揺らし傾けた。

そして、

「……やはり人間、根底から変わることなど早々ないのだろうな」

「変わりませんか」

「あぁ、変わらない。私には全く似ていない。あの好奇心と火事場の度胸……」

「…………」

場を満たすのは、共通する思い出(・・・)の色。

「本当に、何度でも……────彼女を思い出して、仕方がないよ」

然らば、それを口にした男は一人。

「……すまない」

傍らへ立つ、もう一人の男へと謝罪を一つ。

けれども声音は意味合いに似合わず、過去を想う柔らかさに満ちていて……ソレを共有できる相手であると知ればこそ、惚気(・・)を投げ掛けられた千歳は────

「お気になさらず。……まあ、許しませんけどね?」

「はは、君も筋金入りだな」

過去から揺るがぬ本気と冗談で以って、クライアントを笑わせてみせた。

……そうして、影二つは暫しの息抜きを自分たちに許すまま。

「ともあれ、また忙しくなりますよ。世間からの問い合わせ諸々については……まあ、こ(・)ち(・)ら(・)は(・)無(・)視(・)で(・)構(・)わ(・)な(・)い(・)と(・)し(・)て(・)。無視できない邪魔者連中に関しては」

「あぁ、また遥々ご機嫌伺いの旅になるな」

披露者と傍聴者の仲睦まじい会話劇。愉快かつ軽快な時間を世界に提供した果て、そろそろと終幕の気配を滲ませ始めた映像を眺めながら。

「身体が足りなければ言ってください。たまの海外旅行は歓迎です」

「冗談を言いたまえ。せめてもの役割を奪うものじゃないよ」

行く先を共有する者たちは、更なる〝これから〟を予知して予測して予想すると共に、現在地点で止まる択などナシと歩み続けるため顔を上げる。

相手取っているのは、他ならぬ世界。

どちらが正義か理解する者として、甘えた足踏みなど赦せるはずがないゆえに。

『────以上。……ご静聴、ありがとうございました』

『………………ました』

『……大丈夫?』

『………………………………うん。とりあえず寝るわ』

『ふふ……ん、ゆっくり休んで。皆も、おつかれさま。重ねて今回の考察は私個人の勝手なものだから、これからの新説提唱や討論を楽しみにしてる』

『おう、考察ガチ勢は頑張ってくれ……んじゃ、今日は締めかな』

『ん。…………ん、少し待って。最後に一つだけ報告しておくことがある』

『うん? どうぞどうぞ』

『今回の配信内容とは、関係がないのだけれど────』

「「………………」」

今の主役たる、若者たちを見守りながら。

続く未来を識りながら、見据えながら。道を切り拓く役目を託さざるを得なかった大人たちは、現実仮想を問わず身に付いた無意識な一区切りの動作……。

即ち、手にしたカップへ残していた珈琲を揃って飲み干そうとした────

その刹那。

『私たち、つまり私とハル────先日、互いの合意を以って婚約(・・)しました』

『………………………………………………………………………………へ?』

二人揃って、漫画やアニメか何かの一幕が如く。

いい大人が至極盛大……シリアスも何もなく、口に含んだ全てを吹き出した。

[Author's Note]
はい。といったところで六章第一節、これにて了といたします。
語り尽くされなかった部分や曖昧に終わった部分に関しては以降の物語でチョイチョイ触れられると思うので、安心して順に情報を拾ってくださいませ。
はい。