Chapter 1138 - ホームパーティ
『────このクソボケ馬鹿息子が』
「開口一番で罵倒は勘弁していただけると非常にありがたく……」
『いや馬鹿たれ。報告しときなさいよ、お父さん熱出して倒れたでしょうが』
「それは非常に申し訳ないけども……」
『たわけが』
「た、たわけ……い、いや、あのね? あのですね、アレじゃん。アレなんすよ。そりゃ勿論あれよ報告する気がなかったとかじゃなくですね、確かにAsheから『Yes』は頂戴したけれども、ソレで全部じゃないじゃないすかって────」
『お黙りよ』
「はい」
『道半ばだろうがなんだろうが、嫁一人できたんなら報告するもんでしょうが』
「はい」
『でもまあ、よくやったわ。馬鹿息子なりの馬鹿馬鹿しい大戦果は褒めて遣わす』
「なんかテンションおかしくね……?」
『お姫様と息子の婚約発表を全世界配信で唐突に聞かされて、テンションおかしくならない親が存在するなら是非とも会ってみたいものね。連れて来てくれる?』
「ごめんなさい」
『ったく……そらちゃんとリリアちゃんは? 大丈夫なの?』
「あぁ、はい。いやなんか、そっち二人には予め伝わっていたらしく……や、昨日いきなり唐突ぶっぱするってのは聞いてなかったみたいで驚いてたけども。諸々を考慮して(・・・・・・・)、まず自分が婚約した旨を開示しますみたいなアレは……うん、はい」
『あぁ、そう。Asheちゃんの謀略なら安心かしらね』
「なんすかその信頼感。あと謀略て」
『あの子は強くて強かで強いわよ。逆らわずに言うこと聞いときなさい一生』
「えぇ……」
『ま、いいわ。今後は逐一の報告を徹底するように』
「まあ、はい…………いやでも、あの、そんな恋愛事情を親に逐一報告するもんかねと思わなくもなかったりー……する。んですが、如何でしょうかねっていう」
『お父さんの心臓が惜しくないってんなら好きにしなさい』
「逐一の報告を徹底いたします。オーバー」
◇◆◇◆◇
────結果として、昨夜の配信を表す一言は『大爆発』に尽きるだろう。
和やかを主成分とするパートナー配信から始まり、常より増しの増しでテンション高めというか茶目っ気成分を振り撒く姫君の独壇場……からのアレ(・・)。
振り返ってみれば、だから(・・・)か貴様としか思えぬ上機嫌。というか、悪戯(サプライズ)を目前に控えた謀略者のソワつきとでも言おう、Asheの態度。
恋愛成就を謳い上げる直前、気が高ぶっていたものと考えれば頷ける。
然して、おそらく世間はメチャクチャになっていることだろう。まず間違いなく、そのはずだ。────なお断言は不可。当たり前だろうが暫くってか数ヶ月のインターネット断ち生活は決定事項につき下手すりゃスマホ封印まである。
とはいえ見ずとも大体は読めるのが悲しいところ。アレだろ仮想世界における〝敵〟と現実世界における〝敵〟の二種について盛り上がってんだろ?
どうせ『玉の(ク)輿ピ(ラ)エロ(ウ)野郎(ン)』とか『現代の(ク)ヒロイン(ラ)を攫った(ウ)世界の敵(ン)』とか散々なことを言われているに決まってる。曲芸師(俺)もとい【星架(俺)】への愛が有る無しに関わらず散々な文言ばかりで無限に弄られてるに決まってんだ間違いない。
なぜかって、逆の立場だったら俺だってそうするから。畜生め。
────まあ、Asheの思惑は理解できる。元を正せば俺の〝罪〟なわけで、それを上手く捌……けたのかどうかは審議が必要な部分はあるが、とにもかくにも衝撃の分散(・・・・・)は確実に果たしてくれたと感謝はすれど文句は言えないだろう。
告白へ至るまでの考察情報大海原、だけではない。
直前まで俺とソラが仲睦まじいパートナー配信をしていたこと、更に直前Asheとソラの仲良し絡みまで晒していたこと。二点を踏まえて、視聴者の頭は突然ぶっ放された俺&Asheの婚約発表に重度の混乱を来したはずだ。
アリシア・ホワイトという人間への絶対的な信頼もあって、である。
まさかそんな、意地悪なことはしないはずだと。
恋敵とはいえ無垢な少女を相手に、あんな慈愛の声音で労ってみせるような相手に、全世界配信なんて場で以って慈悲無き勝利宣言などしないはずだと。
────じゃあ、なに? ……と。
そういう意味での『大爆発』である。主に視聴者たちの頭が的な意味で。
衝撃の第一波を、混乱というオブラートで包んだわけだ。どれだけ効果があるかは謎に尽きるが、少なくとも多少なり世間の意識はズレるだろう。
そうして僅かばかり時が稼げれば、議論は多少なり冷静になった頭で行われる。過激な大騒ぎも……やはり僅かではあろうが、本来よりも減るのではなかろうか。
……減ってくれるといいなぁ、という思惑なんだろうて。
どの道、俺たちの立場が立場なだけに。そして俺たちの恋愛事情が不本意ながら既にバレているために、世間への『報告』は将来的な必須事項だった。
加えて、Asheにタイミング(・・・・・)を預ける前から『可能な限り早く』とは俺も考えていた。ただでさえ複数人へのプロポーズとかいう一般論からすれば不誠実の極みが如し道を選んだゆえ、全ての択は誠実が過ぎるくらいでなお不足ってな。
なので、そう。文句は、ないんだ。
事前に計画を共有してくれていなかったのも含めて、謀略(・・)だと察しているから。あんにゃろう、まーた責任を攫おうとしてやがるなくらいしか、ないんだ。
そう。文句は、ね。
つまるところ────
「……………………………………────え、俺, 処刑される? 助けて」
────悲鳴(・・)は、止まるところを知らないのだけれども。
日付は配信翌日、時は朝っぱら。場所はログイン直後に有無を言わせず召喚された、赤の城……即ち、南陣営戦時拠点【騎士の王城 -エルファリア-】の最上階。
南陣営序列持ち。女王にして姫君である主と、忠臣たる者共の集会場にて。
「「「「「「「「「「………………」」」」」」」」」」
俺は序列二位から十位までの九名プラス、現序列外でありながら変わらぬ右腕の【侍女】様一名。締めて十名の名立たる歴々に無言で囲まれていた。床正座なう。
訂正、約一名は無言ってかスヤスヤ寝てるから締めて九名。
だからどうした助けて。主に玉座にて無表情でニマニマしている約一名────
……と、仕舞いにゃ俺が「とりあえず土下座でもすべきか……?」なんてプレッシャーに耐えかねた末に無様の披露を検討し始めた折。
「────ハル」
「はいッ……」
まず一言、口を開いたのは序列二位。
反射的に出た返事が何故に怯えと畏まりのミックスされたものなのか自分でも意味不明だが、気分は完全に恋人の両親へ結婚の赦しを請いに来た野郎のソレ。
なぜ俺はAsheの両親よりも先に、姫君の騎士たちに囲まれているのだろうか。とんだファンタジーである重ねて請う誰か助けてくれ────と、
謎ではあるが必然でもある現状。どこまでも恐縮して縮こまる俺に、
「マジ(・・)?」
序列二位【Heavy Tank】……──狭い界隈では『女王の忠剣』とかなんとか呼ばれていたりいなかったりするらしいUniは、極めてラフな形状で、問いを放った。
「………………ぇー……とぉ……」
然らばチラと一瞥、長机の向こう側。やはり無表情の上機嫌で婚約者(俺)および臣下たちの戯れを眺めているAsheへ視線を飛ばせば、
返ってきたのは、無表情ならざる明確な微笑。
なんなんソレいい加減にしとけよ超可愛い────じゃなくて、はい、了解。
「………………事実、です」
了、というかGOサインを受け取り、問いに返すは肯定の一言。
……斯くして、
然して、
「「「「「「「「「「…………………………」」」」」」」」」」
また暫く、無言の時が満ちて────刹那。
「────まあ知ってた知ってた! そりゃ落とすよねアイリスだものッ!」
「…………んぅ、うるさ……ぃ………………」
「いやぁ、お祝いだねぇ流石にこれは‼︎」
「幸せもんがよぉ祝ってやる!!!」
「とりあえず胴上げしとこうか!」
「んぁーぶっちゃけッ複雑、だけどもッ……──ん姫おめでとうッ!!!」
「やーめでたいめでたい! ようこそ妻帯者(こちらがわ)へ‼︎」
「恋の成就は詩の華、ってねぇ!」
「もう逃げられないねぇ! よっ、王子様ぁ!!!」
「ぇうるさ────痛(い)っ!? おい今ビンタしたの誰いや誰じゃねぇ白猫(Nassen)テメッ……──ちょ、なに! なになになにッ!? やめ、待────ッ」
喝采、からの謎に満ち満ちた胴上げ決行。
柔らかく相好を崩して輪から離れていった【侍女】様一名。そして騒ぎに押されてフヨフヨ浮遊するベッドごと自動離脱していった【城主】様一名。
を、除いた計八名の序列持ちによる胴上げ────仮想世界アルカディアの頂点に位置する超人ども八名による、渾身の胴上げ。全員が全員フィジカルに振ったステータスというわけではなくとも、オチは容易に見えていた。
だからこそ、やめて待ってと懇願したのだが聞く耳は持たず。
点火したテンションに従うまま、捕らえた哀れな獲物を、彼ら彼女らは遠慮なく胴上げ────もとい、真上射出(・・・・)、その結果が如何様なものとなったかは……。
加害者と被害者と傍観者、および天井(・・)のみが知る悲劇だ。
[Author's Note]
まずワンキル。
些事はさておき六章第二節、張り切って参りましょう。