Chapter 1140 - 白銀に桃香を添えて
────さて。
実のところは呼ばれるまでもなく自主的優先事項であった南陣営への出頭、もといAsheの身内に対する『ご挨拶』については穏当に済んだということで。
「この後どうする? 飲みにでも行っちゃう?」
「「いいねぇ」」
「『いいねぇ』じゃないんだわ朝七時っすよ先輩方」
暫しの歓談中も際限なくテンション高めで冗談やら何やらを浴びせてくるUniたちへ、白状すれば満更でもなく嬉しいような痒いようなノリで付き合っていた折。
不意に鳴るメッセージの着信通知────は、今朝に関しちゃ随時ポコポコ届いているので特別では無いにしろ、チラと確認した送信者の名は特別だった。
即ち、約(・)束(・)を(・)し(・)て(・)い(・)る(・)相(・)手(・)。
つまるところ、声掛けを以って刻限を告げるメッセージでもあった。
「っと……悪いけど、今日は先約があるもんで失礼するぞ」
ゆえにタイミングを見て立ち上がれば、並ぶ「ありゃ「りゃ」と素でやってんだかワザとなんだか不明な息ピッタリの尽きぬ腐れ縁芸。
然して飲みに行こうぜ云々の賛同に関しては冗談ではなかったのだろう。退席宣言を受けて微妙に残念そうにしながらも、引き留めようとはしないサッパリ野郎相方同士……の隣。同じく待ったは掛けずとも、似合いの笑み。
揶揄い抜きは一幕冒頭のみに限っていたのだろう、Uniはニヤリと俺を見た。
「ほんとに、モテモテだねぇ」
見て一言、そんなことを言うもんだから。
「おかげさまでな。────またいつでも、組手なり暇潰しなり誘ってくれや」
モテというより、デビューから生意気な後輩を懲りず持て囃し可愛がってくれる先輩方へヒラっと手を振り……転移の光を喚び出して、俺は南城を後にした。
最中、再びの着信。
ハイハイちょっと待てと、急かすようなシステム通知に苦笑いを零しながら。
◇◆◇◆◇
事前の約束や招集などがあれば話は別だが、基本的に東陣営(ウチ)の先輩方は夜に行動するタイプが多い。ゆえに朝は基本的に静かな時間帯だ。
夜型どころかド深夜型のテトラは言わずもがな。ぶっちぎりの多忙につき同じく言うまでもないミナリナの他、ゴッサンや雛さんも夕方頃のログインが多い。
そして決まったルーティンを持たないが基本的に朝だけは不在が常のゲンさんと来て、残りは三人。割かし居るタイプ、常に居るタイプ、居る時は居るタイプだ。
割かし居るのがIroriで、奴に関しては語るまでもない限界修行馬鹿ゆえ一体なんのためにというのは意味なき思考。やってることは究極的に『ゲーム』と考えてしまうとアレだが、仮想世界を中心に回る現代基準で考えれば逆に一番真面目(・・・・・)。
全く面白い世の中である。
なお気分や適当なノリで「お、やってんねぇ」と絡みに行くと地獄のような修行満漢全席に巻き込まれ、その日は終わり(・・・)まで果てなき後悔に苛まれる羽目になるというのが重要事項。俺はもう二度と行かないと固く心に誓っている────
馬鹿はさておき、常に居るのが他ならぬ我が師匠Ui-san。
それというのも『朝の素振り』が日課に組み込まれており、キッチリ朝六時から三十分間だけログインしてくる形である。そしてその後は朝食作り、剣術道場関連のアレコレ手伝い、昼食後に再びログイン……といった具合。
つまりメチャクチャ規則正しい。会えない時は会えないが、会おうと思えば時間を合わせりゃ絶対に合えるのが【Sword Saint】様である。流石の大和撫子(?)だな。
ちなみに朝食はパン派らしい。それもさておき、居る時は居るのが残る一人。
より正しくは、一回フレンドリストでオンライン表示を確認できたらほぼ一日中。ぶっ続けで朝からド深夜まで何処なりを彷徨い歩いている諸々不詳の自由人。
その名は────
「え、サヤカさん(・・・・・)???」
────である。
え?
あ、いや、違う。違わないけど違う。その名は不良ヤンキーゆらチョロこと【Screen】Yurayura様であらせられるぞってか……え、なに? なんで?
なにゆえに……。
「おはようございますっ……!」
「ぁはい、おはようございます……?」
朝っぱらから集合を約束していた相手。つまりはチョロチョロYurayuraとの待ち合わせ場所である『Eastern Round Table』に、北の聖女様が待ち受けていらっしゃるのか。
ほんで肝心の銀色に関しては影も形も────
「ハル様……!」
「ぁはい。あの、近いです」
と、ズイ(・・)。
「ご婚約、おめでとうございますっ……‼︎」
「ぁはい、ども……あの、近いです」
と、ズズイ(・・・)。
あの、あれだ。この人に関しちゃ『俺』についての情報を取り零すはずがないと諦めにも似た信頼関係が既に形成されているがゆえ、出会い頭に聖女様テンションで祝言を渡されるのは意外でもなんでもない。それはそれとして……──
ズズズイのズズイズイ。流石に一旦あれしようか落ち着いていただこうか。
落ち着いていただけるだろうか?
「あの、サヤカさん? ちょっと一旦」
「あぁっ、複雑な気持ちです……! 喜ばしくもありながら一抹の寂しさも確かにあり、勇者(あなた)の幸せを思えば『おめでとう』以外の言葉など浮かばないはず。それなのに、その当たり前を口にした今とても言い表せない感情が胸(ここ)に……!!!」
ぁダメですねコレは、とても落ち着いてはいただけません────いやあの、ほんッ……ちょっと待てマジ近い近い近いッ! 止ま、止めッ……‼︎
「──────なぁにやってんだ、ボケナス」
斯くして、コレで悪意や下心は一切ないと知れている聖女様へ失礼御免と思いつつ。右腕より影糸を解放し瞬時捕縛の執行に移ろうとした刹那。
来たるは青き転移の光、現れるは銀の麗しき姿、放たれるは色無き剣呑な声音。
そして、
「──────ふッ、み゛ゅッん……!!?」
降り落つ(・・・・)は、約一名の視界に色とりどりの星を散らしたであろう、
情(・)け(・)容(・)赦(・)な(・)き(・)、拳(・)骨(・)一(・)撃(・)。
ビックリした。何にビックリしたって、一つ残らず全部に対してビックリした。
ミリも躊躇なく『聖女』様の脳天に遠慮なき〝右〟を叩き込んだ【Screen】にも度肝を抜かれたし、聞いたことのない愉快な悲鳴を上げてベシャァッ!!! っと盛大に【Orb Law】様が床へ倒れ伏したのも目を疑ったし……その、一応、なんだ。
ハッキリと予備動作(プレモーション)は捉えており動こうと思えば如何様にも動けたはずの自分自身が、目の前で貞淑な……──て、貞淑な? まあ、外見および本人の自認思考に関しちゃ貞淑な乙女が、激烈な脳天一撃を喰らう様を見過ごしたという点に。
某赤色の被制裁もとい日常風景とは流石に絵面が違う。反射でも何でも庇おうとするのが自然ではと自分でも思うのだが、全くもって動く気にならなかった。
それはまあ、状況打開という意味で救われるというのも理由であったが……。
最大の理由かつ、なにより驚いた点。それは他でもない、あの(・・)、Yuraが(・・・)。俺の気のせいでなければ、あの【Screen】様の目が────
「ぃっ…………た……ッな、なにゃっ! なにをするんですっ……‼︎」
「なにしてんだは私(こっち)の台詞だ。朝から盛(さか)ってんじゃねぇぞテメェ馬鹿聖女(おはなばたけ)」
「盛っッッッッッ……!!?!??!?」
いつも通り、不機嫌を塗り固めて仏頂面に嵌め込んでいるような銀色の瞳が。
ごく僅かながらも確かに────
「………………………………おぉ……?」
初めて見る真(・)に(・)気(・)を(・)許(・)し(・)た(・)色(・)を、他人に対して向けていたから。
[Author's Note]
楽しくなって参ります。