Chapter 1132 - アイハル配信中:Part.1
────さて。
振り返って、先日の『Green Connect』攻略第二幕は甚だメチャクチャな構成だった。
俺たちが知る『Four Pillar War』の会場と同一に見える空間へと飛ばされたかと思えば、突如始まる限界ホラー強制スクロール鬼ごっこ。
終わりの見えない迷路、
無限にも思える〝塔(Pillar)〟巡り、
一度さえも、進まぬ秒針。
女神様の加護とやらは圏外(・・)にて毟り取られ、トータルで見ればKey Tree第一層からのLv.1攻略スタートと比べても猶更ひっでぇ状況からの生存強要。
そして四方に在り俺たちを待つのは、それまで名を聞いたこともなかった遥かな過去の英雄たち。『Primeval Four Towers』に連なる【勇者】【賢者】【聖女】【王帝】。
然して、彼ら彼女らの試練を突破……したかと思えば、アレである。
本当に配信初期にて宣言した通り、当の俺たちも無限に首を傾げながら走り切った攻略行。というか、今なお〝謎〟は継続中ってのが実際のところ。
そりゃそう、当たり前────ただでさえ意味不明だった一連の流れから、誰かさん(・・・・)の関わる記憶部分がゴッソリ失われてしまったのだから。
あの日、俺たちと共に『扉』の先へ挑んだNPCこと双盾の騎士様(Kendy)。
彼の姿、そして彼の齎した〝言葉〟は全て、俺たちの頭へ宿ることなく消えてしまった。何日経とうとも、その空白が埋まる気配はないままだ。
つまるところ、言ってしまえば当時よりも状況は酷い。
元より意味不明理解不能な流れだったというのに、それに対してギリ成程なぁ(???)と理解したフリを可能としていた『説明』全てが吹っ飛んだわけで。
おかしなもので、なんと表したものか『知識』は辛うじて残っている。これも穴だらけには違いないが、確かに誰かさんから頂戴したのだろうと察せられる記憶というには頼りない覚えを、俺たちの頭は継ぎ接ぎながら持ち帰っている。
おそらく、それこそが持(・)ち(・)帰(・)る(・)こ(・)と(・)を(・)許(・)さ(・)れ(・)た(・)モ(・)ノ(・)。
あの記憶喪失現象がシステムの意志……延いてはゲーム進行に則った演出(・・)だというならば、この僅かばかりの残滓こそ────我が友が、俺たちに託した何か(・・)。
そしたら……けれども……そんなもので、誰が理解を進められるというのか。
一体、誰が推理に挑めるというのか。
果たして、誰が推測に至れるというのか……────
「そんじゃ姫様。一丁よろしく頼みますわ」
『ん。此処まで……────エ(・)ン(・)デ(・)ィ(・)ン(・)グ(・)ま(・)で(・)を(・)踏(・)ま(・)え(・)て(・)、私の考察を披露する』
────はい愚問。言うまでも、ないことだ。
おおよそ三十分間の休憩および配信切り替え作業の後。演出として用いたスマホの通話からボイスチャットへ回線を移し、オンラインコラボの形を構築。
然らば宣言通りのキャスト交代。疲労困憊&いい時間(・・・・)であるため配信部屋から即退室、今頃は客間でグデグデになっているであろうソラさんに代わり……。
『つまり、個人の見解が多分に含まれる。……含まれ、ます』
「がんばえー」
ミニキャラと化しても迫真の無表情。それも一周回って味と成している無敵の姫様と、第一次配信からの梯子につきペース配分の低速ギアで続投の俺。
デデンとデフォルメ二人が収まったデフォルメソファが、ちまっと右下端。そして配信画面の残り全面を占めるのは、黒(・)板(・)ラ(・)イ(・)ク(・)な(・)暗(・)緑(・)色(・)の(・)ス(・)ク(・)リ(・)ー(・)ン(・)。
ほんでもって────
「……と、始まる前に一言」
『ん』
「お前その格好(・・・・)、似合い過ぎな。チビアバターだけど」
『ふふ』
ノースリーブの白シャツに、黒のタイトスカート。同じく黒のストッキング&パンプスの足元装備というコッテコテでは飽き足らず、転じて上。
これ本当にデフォルメされてんのか? 素顔(リアル)と変わんなくね? と謎に混乱させられる、ちんまいとて巧みに特徴を捉え表現されている本人由来の美貌を彩るは、
ほんのり強気を演出する、アンダーリムの眼鏡様。
即ちアリシア・ホワイト先生の実現爆誕と相成れば……配信第二幕が一体どういった形で進行していくかなど、誰でも察するに容易いだろう。
解説よろしく先生ってな寸法だ。こんな先生が存在したら生徒の人生歪みそう。
────とまあ、ノリノリだった三枝さんの力作は置いとくとして。
Asheが『エンディング』までを踏まえてと言った通り、第二幕開始より十分程度の時間を経て一時停止していた再現映像は終端まで再生済み。
つまるところ、それは俺の記憶の終局(・・・・・・・)……。
『……大騒ぎ、ね』
「そりゃなぁ」
まあ、そういうこと。
俺が突如として意識を失い昏倒する場面まで、公開済みということで。
実際には俺の記憶に『俺が倒れるシーン』など映っているはずもないので、ぶっちゃけた話そこだけに限っては再現ではなくイメージ映像。
当時を知るNia監修の下、どうにかこうにか違和感を感じない程度の作品に仕上げさせてもらった。倒れる音なんかは実際に俺がドテーンといって収録したゆえ、臨場感に不足はないはず……と思っていたのだが、どうにもこうにも。
予想を遥かに超えて膨大な『心配』の声が届いているもんだから、少々リアリティに拘り過ぎたかと密かに反省中である。やっぱソラさんには見せらんねぇな。
そんでもって、それだけ(・・・・)ではない。
あのシーン……つまり『扉』からの帰還までを見せたということは、俺たちが誰かさん(・・・・)の記憶を失っていることに気付いて取り乱す場面も見せたということ。
勘の良い者であれば、当然のこと気付くであろう。そして気付いた者が一人でもいるのであれば、共有されるのがオンラインというものだ。
即ち────件の攻略が、俺たちの『記憶』に影響を齎したのではという衝撃の推測が、事実の判は得ないまま急速に視聴者間で波及している。
控え目に言って、そう、大騒ぎ。
これを鎮めようと思えば、並の有名配信者とて多大な苦労を要することだろう。
……まあ、
『…………────ん、静かに』
ウチの姫様に掛かれば、秒なんだけどなと。
いや流石にどんだけだよ。姫ってか最早【王帝】ならぬ【帝王】じゃねぇか。
「……なに今の? あんなモーション納品されてたっけ?」
『チェックが甘い。私が追加で頼んでおいた』
「それは俺のチェック関係ないのでは? あとなに、しれっと仲良くなってんな」
然して、ベシぃ(・・・)ッ! とミニキャラAsheがどこからともなく取り出した指示棒で背景……つまり黒板を引っ叩いた瞬間、静まり返るコメント欄。
お利口が過ぎる。どんだけ訓練されてんだコイツらと俺は苦笑いするばかりであるが────当人は、そんなファンたちとの交流に慣れているのだろう。
当然とばかり眉一つ動かさず、
『……一から十まで、優しく丁寧に解説してあげるから』
当然とばかり静かな声音で、
『落ち着いて、のんびりと、ご清聴を……お願いします』
当然とばかり、流れるような手腕で、我がチャンネル(Clown)を乗っ取ってみせた。
[Author's Note]
「地味に敬語レア過ぎて慣れねぇ」
『顔が見えない相手への礼節、とても大切』
「なにそれタメ口を推奨された俺はどうすりゃいいの」
『ハルはいいの。ハルだから』
「え、素で役に沿った無礼者ってこと???」
『ハルはいいの。ハルだから』
といったところでアイハル配信。適宜カットしていくので爆尺にはならないかと。